The Story · No.02

1-9からの逆転劇

1−9のビハインド、4−8のビハインド、 そして決勝では0−5のビハインド。 この逆転劇の背景には何があったのか。 アメリカでの3週間を戦い抜いた フェニックス・オープン王者への5つの問い。 見ないと決めたスコア、配分を覚えた体力、 そして、ようやく噛み合った積み重ね。

タイトル2026 フェニックス・オープン優勝
種目ポケットビリヤード・9ボール
舞台アメリカ・アリゾナ州フェニックス
取材The Story · 2026年8月

ワールド・ナインボール・ツアーのアメリカ3連戦。アレクサ・ペツェリはアリゾナ・オープンで準優勝を収め、その翌週、初開催のフェニックス・オープンを制した。彼にとっては初のWNTランキングイベント優勝である。

この2週間で、彼は3度、終わりかけた試合を引き戻している。ユマのアリゾナ・オープン準々決勝ではアルベルト・ヤヌアルタに1−9とリードを許し、準決勝ではシェーン・バン・ボーニングに4−8。そして翌週のフェニックス決勝、オリバー・ソルノキに0−5。追う側の椅子に座っているあいだ、彼は自分に何を言い聞かせていたのか。

彼の答え方はプレーと同じで飾りがない。0−5から始まった試合について聞けば、次の一球の話をする。初のランキングタイトルについて聞けば、最終日にどれだけ力を残せたかの話をする。

以下の5つの問答はフェニックス・オープンの決勝を終えた直後に交わされた。話はいつも同じところへ戻っていく。スコアは結論ではなく、ただの情報にすぎないということ。そして、順番が回ってきたときにそれを掴めるかどうかは、台を離れた場所での積み重ねが決めるということ。

Q: 今大会は0−5から始まった試合が多かったと聞きました。そういう状況で、自分に何を言い聞かせて戦っていたのでしょうか。

スコアは、あまり見ないようにしています。自分に集中して、チャンスが回ってきたときに動ける状態をつくっておく。相手が誰であっても、プレッシャーをかけられる力はあると思っていますから。0−5でも、試合はまだ終わっていない。だから今この瞬間に集中して、チャンスが来るのを待ちます。

Q: アリゾナ・オープンで準優勝、その直後にフェニックス・オープンで優勝されました。ご自身では、違いはどこにあったと感じていますか。

アリゾナのあと、タイトルへの気持ちはさらに強くなりました。決勝まで行けたのは運ではない、と示したかった。いちばん違ったのは、三試合を戦う最終日の体力の使い方です。

先に何が待っているかを頭に入れて、序盤は極力力を使わず、終盤に残す。一試合ごとに全部を出し切るような戦い方はしませんでした。アリゾナではそれができず、シェーン・バン・ボーニングとの一戦で使い切ってしまって、決勝の台に立ったときには何も残っていなかったんです。

「0−5でも終わっていない。見るのは、目の前の一球だけ」

Q: フェニックスの決勝の空気を、その場にいなかった人にも伝わるように話していただけますか。

とにかく素晴らしい雰囲気でした。会場全体が自分の味方についてくれているように感じたんです。本当はそうではなかったかもしれません。でも、そう思い込むことにして、その熱をそのまま自分の力に変えました。

歓声は大きく、そして観客の目は肥えていました。難しい一球にはきちんと声が上がり、勝敗が動く場面をちゃんと分かっている。あの観客の前で撞けたことは、本当に幸せでした。

Q: アメリカの環境やプレースタイルは、ご自身に合っていると感じますか。

結果がそう言っている、というのが正直なところです。アメリカではいつも状態がよく、上位まで残れていました。最後まで勝ち切れたのは今回が初めてですが、扉はずっと叩き続けていました。この土地の台の条件、会場の空気、プレーの質。どれも自分によく馴染みます。

「試してきたことが、ようやく形になった」

Q: 今回の遠征を通して、技術面でも精神面でも、自分の武器になったと感じるものはありますか。

ほとんどはメンタルです。技術の変化はごくわずかでした。試合の心理的な側面については、長く考え続けてきました。何年もかけていろいろな方法を試して、今回ようやく噛み合った感覚があります。

目の前の一球に集中して、自分を制御した状態を保てるようになった。この競技では決定的に大きいことなのに、外からはなかなか見えない部分でもあります。それが今回の遠征で、確かな武器になったと思っています。

フェニックス・オープン、2026年8月22日 — 初のランキングタイトル